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2005/02/19

眼の時代から聲の時代へ

「即興朗唱」を広めようと孤軍奮闘
 今から5年前の1989年、月刊『なごみ』(淡交社刊)4月号の「仕事の余白」に<現代の秘儀 即興朗唱 聲ノ力・聲ノ質>という文章と字3点を発表した。が、余り地味な雑誌故に、人の眼に触れなかったためか、その後、「聲ノ質」や「聲ノ力」について語る者は他に現れ出なかった。
 そもそも「即興朗唱」を行う者も、職業としての「朗唱家」もこの国には、私ひとりしか居ないのだから無理も無い。
 これも忘れもしない1983年2月10日、詩人・吉増剛造を誘って厳寒期の北海道を朗唱して巡る旅、「北ノ朗唱」を初めて行った帯広。この日、日本経済新聞の文化欄に「朗唱」について文章を書いた。その後、この文章を読んだ税務署員が、この人は詩人ではなく、朗唱家だと確定申告書を届けた税理士に伝えたそうだ。税務署が認めた「朗唱家」として、最も古く、かつ最も新しい表現形態としての「即興朗唱」を広めようと日々、孤軍奮闘している。努力を続けていると、理解者も増えてくる。その筆頭が2年前に亡くなられた英文学者・壽岳文章さんだ。

多大な教示を得た壽岳先生との出会い
 壽岳先生とは11年前の1983年5月、ご自宅に伺ってお話をすることが出来た。本当の一期一会である。この時、生まれて初めて、悪筆と思っていた私の書く毛筆の字を、「とてもいい字ですよ」と褒めて下さった。私の字を面と向かって批評してくださったのは壽岳先生が最初だった。何か面白いことをやろうと画家・村井正誠と「カリグラフィ」展を始めたばかりだっただけに、余計にうれしかった。そして、「ぜひ一度、聲を聞いてみたい」と聲を所望されて、ひと聲だけ発した。そして僧・空海の「聲ニ實相アリ」という言葉を知っていますかと問われた。
 その日、向日居には何時間居たのだろうか。壽岳先生との会見は、今後の「聲」と「字」との活動に多大な教示を得たのだった。
 その後の1988年10月、東京・六本木にあるストライプハウス美術館の全館を使用して、「ー詩の根源を求めてー詩人・朗唱家天童大人の字家・三童人としての初めての個展、字家、三童人、字聲展」を行う時、先生に電話で、「いい字だと初めて認めて下さったのは先生ですから、ぜひ推薦文を書いていただきたい」とお願いしたら、快く引き受けて下さった。お会いしてから5年の歳月が流れていたが、あの会見が余程、強烈だったのか、送られてきた文章に「略/言わばその『向日居清規(しんぎ)』の門閑を、偶然中の偶然が無視し、この茶の間が、不思議な人物を客とすることも稀にはある。その不思議な人物の随一は、ここに紹介する天童大人であろう。/略」と記されてしまった。
 1989年5月、東京・日本橋の丸善で「壽岳文章と書物の世界展」がひらかれた。初日に会場に伺ったところ、壽岳章子さんが先生に代わって上京されていた。
 「私も聲が大きいと思っていたが、テンドウさんも大きな聲ですね」と笑いながら言って、「父が居間のシコウさんの額を外して天童さんの字を掛けていますよ」と言われた。
 シコウさんが棟方志功と気がつくまで、かなりの時間が必要だったが、私にはとっても嬉しい話だった。
 私は壽岳先生から空海の言葉を聞き、聲と字とを行い得た先達者として、空海をはっきり自覚出来た。
 一回性の「聲」と「字」との同一、芸術の世界では「時間」も「空間」も一如で、合い通じるのではないか。「聲モ人ナリ」であると同時に「字も人なり」である。
 だが、肉聲の「聲ノ質」を聞き分ける鋭敏な耳も誰もが持っている訳だは無い。誰もが自分の耳が「荒れた耳」だと考えて見たことがあるだろうか。

訪れ始めた本物志向の「肉聲」の時代
 現代で「肉聲」を聞く機会は非常に少ない。ちょつと回りを見渡してみれば、毎日、ほとんどが電気のコピー音の氾濫の中に埋まっている筈だ。電話、テレビ、ラジオ、カラオケ、CD、公演、アナウンスなど良い耳を保つ事は困難になっていることに気がつく筈だ。
 記憶に残らない聲、コピー音に世界は素手の犯されていた。「見る」視覚や、「味あう」味覚の時代から、ゆっくりと本物志向の「肉聲」の時代が訪れ始めている。
 一昨年、ある会合で出会った大島清京大名誉教授も、公演で肉聲で行い続けていると告げると、今後、最も重要な分野であると指摘された。都会で「肉聲」を聞く機会も少ないだろうと、一昨年の12月から毎月1回、東京・築地にある兎小舎というミニスペースで、即興朗唱公演を行い続けている。
 「肉聲」は無防備なのだ。整形も行えない。誰もが安易に聲を出せるものだから、「肉聲」について考えてみようとも思わないらしい。
 ともかく「即興朗唱」とは何か、説明することが誠に難しいので、ぜひ一度ご来場下さり、ご自分の耳で「肉聲ノ力」を確かめていただきたい。

                   (天童 大人  朗唱家・字家)


インフォメーション・ウイーク No.1094 に掲載。 1994年1月19日発行 (株)博報堂CC局 情報デザイン部

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