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2006/03/02

吉田一穂(詩人)と石楠花祭 果てしない天地で朗唱。

  詩人・吉田一穂が亡くなったのは1973年3月1日。あれから、もう33年も経ったとは、驚きだ。
  片付けをしていたら、「吉田一穂と石楠花祭」と言う、1983年6月28日付、上毛新聞に掲載されたエセイが出て来た。
 命日だったし、そのまま掲載する事にした。


   吉田一穂と石楠花祭

                    天童 匡史

 限られた狭い空間で、肉声を発するのではなく、果てしない天地で朗唱をしてみたいものだと、二月に行った北海道朗唱ツアー以後、漠然と考えていた。
 三月上旬、詩人吉田一穂師が亡くなられて、十年たち、今年、初めて弟子一同により「吉田一穂師を偲び語る会」が、都内でもたれた。一穂師の最晩年に出逢った者として、また会の発起人のひとりとして名を連ねたこともあり、出席した。その席に草津から坂本嘉市氏が出席されていたことを、坂本氏が語りはじめて初めて知った。
 今、一穂師の詩碑は、この三月亡くなられたホトトギス同人の俳人水原悠々子によって古平に建立された詩碑「魚歌」と草津温泉在住の坂本氏が建てられた「山媛呼」の二つである。そして、坂本氏の口から、毎年、詩碑の前で石楠花(シャクナゲ)祭が執り行われており、今年は五月二十ニ日の日曜日に十九回目の式典が行われると話されるのを聞いて、その席で朗唱が出来たらいいのだがと、一晩思ったがすぐ忘れてしまった。
 五月三日、早朝、坂本氏から、石楠花祭で一穂師の「山媛呼」を奉納朗唱してもらえないかの電話であった。
 五月八日、朝八時上野駅で、同行する桜井博と共に、打ち合わせのために上京された坂本氏と会い、この詩碑建立の経緯などを聞くことが出来た。その席で、今年の「上越国立公園草津」の観光ポスターには、石楠花と「吾妻はや/白根の峯にけむり立つ/よひて声あり/古ゆ/これの山媛呼/たきついてゆの/おもひに咲くや/石楠花/一穂」との詩句が共に印刷されているのを見、石楠花祭に一穂の詩作品が息づいていることを知り、またここまで成し遂げられた坂本氏のご苦労を思い感慨にふけった。
 二十一日の夕方、坂本氏に案内されて町を歩いた。前夜祭の行事のひとつとして、白根神社で、町の若者たちによって行われた「牛の丸焼き食べ放題」を見に行った。
 本当に牛が鉄棒にさされ、炭火の上で焼かれていて古(いにしえ)の武将たちがほお張るようにして、切りちぎっては食べながら、これは草津石楠花祭の名物になると思った。
 夕食後、突如、降り始めた雨音を聞きながら山菜保存研究家として、この地に五十年余り生活し、山野を歩くうちに、日本武尊と弟橘媛との故事を知り、この地に「山媛呼」の碑の建立を思い立ち、東奔西走した日々。そして碑の題名を後藤大学、レリーフを彫刻家圓鍔勝三で建立された高さ2・5メートル、幅1・3メートル、厚さ1メートルの碑の前で、鎮花祭の日、一穂師自ら朗読し、献詩した詩篇「吾妻はや」を、十九年後に、私が朗唱することの縁の不思議さを、坂本氏所蔵の数多い一穂の書を見ながら、考えていた。
 二十二日、朝八時半、ホテルまで迎えに来られた坂本氏に案内されて、桜井と共に、会場である殺生(白根火山ゴンドラ山麓前)に向った。
 今年は石楠花の花の散るのが早かったと、坂本氏の指の先を見ると、あかい色をした天然記念物が、僅かに見ることができた。
 会場では、草津町長、草津観光協会会長、山媛呼奉賛会会長等を紹介された。
式典は神主の神事から厳かに始まった。昨夜の雨が全てを洗い流したのか、青空が果てしなく見え、標高1,600メートルのこの地から、残雪も間近に見え、なぜかピレネー山脈を歩いた時のことを思い出していた。
 奉納朗唱(断じて朗読ではない!)するときが来て、私が立ち、肉声をどこをめがけて打とうかと思った。が一瞬のうちに、天地のはざ間に立っているのが見えた。声を出した。
 声を出しながら一穂師との生前に果たしえなかった「約定」を思い出していた。
 ピレネーの頂で撃った銃声はキーンという金属音を発するかどうか、確かめてもらいたい。

 キーンという音が肉声の「間」、山媛呼のコトバの間から聞こえてきた。もう、今日は声を出す必要はない、思い切って虚空めがけて、肉声を打った。
 次いで草津吟詠会の有志による「あずまはや吟詠」が続いて行われた。来賓の挨拶には、草津警察派出所長、営林署長等が立たれ、この石楠花祭が公式の式典であったことを改めて痛感した。
 恐らく、今後、石楠花が咲く五月が毎年訪れるとき、この日の奉納朗唱のことを忘れることはないであろう。
 記念すべき一日であった。


                        (朗唱詩人)
  

 

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