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2012/03/11

作家森茉莉の恐らく全集にも、何処にも収録されていないエセイ「不思議な国」が、引き出しの奥から出てきた。貴方のことを書いたわよ、といって茉莉さんからいただいたコピー紙が、薄く暈けていて、変色、退色し読み切れないコピーだった。

 暈けたコピー紙に、拡大鏡を当てながら、読み解いた作家森茉莉のエセイ「不思議な国」。

横浜で刊行されたタウン誌に掲載されたエセイ。

時期は1971年から、1972年7月までの間に、掲載されている筈だが、どなたかご存じないだろうか?

 
   エセイ「不思議な国」 森茉莉

「この間私は、突然訪れた天童さんという人に連れられて柳沢二三子さんの家のパーティーに出席した。天童さん、柳沢さんと親しそうに呼ぶが、お二人とその突然の出会いの日が、初対面である。お二人は私の書いた本や雑文を全部といってもいい程呼んでいるとゐふ変わった人物で、(このごろはそういふ変わった人物がふえて来た)そういふ人々とは、忽ち親しい言葉で話し合ふようになるものである。それにその日から一週間とは絶たない或日又、柳沢二三子さんが私の部屋の近くの邪宗門という珈琲店に来て、一緒に私が毎晩そこで晩飯をたべるアラビカ(スナック)に行こうふとしたら休みだったので、六本木の「ベビイ ドール」の(三階?)に誘われて、御馳走にになることになったので、もうすっかり親しい人のようになつた感じなのである。
 そのパーティーの夜は全く、不思議な国に伴れて、行かれたアリスのようだった。その家はフランスのヴィラのような白くて、黒い鉄格子の窓の中に、橙色の灯りが燈ってゐた。中に入るとフランス式の広い、ヴェランダのあるサロンに通されたが、不思議な国と私が題に書いたのは、その綺麗な家も家だが、そのサロンにゐた四十人近い人々の中に、五十年前に欧羅巴から帰ってからといういふもの会って話をするどころか、街で会ったこともないフランス人たち、それも巴里の人が大勢ゐたからだ。私のゐたテエブルに来て私と話をした人々だけで四人もゐたのである。何か話そうとすると熟語や形容詞がなかなか出て来ないので困りながら、五十年ぶりで、少しだけどフランス語を話した。話したのはカルダンのところに三十七年縫い子をしてゐたジャニイ、マリイさんというフランス語はLOUIS,と教えた時、弟はルイ十四世で、私はマリイ・アントワネットである、などとふざけたり、花を造る青年には、私の妹が日本のデパアトでフランス人の造った赤い薔薇を買って来て呉れたことがるが、その花をヴェルモットの空壜に挿したら素晴らしく調和して、花と壜とが結婚したようだったと話したりした。巴里の人は交際が上手いから、その青年は、「あなたともっとたくさんお話がしたい」などと言った。おかしかったのはホテルの青年が私を、柳沢二三子さんのサロンに招かれて来たのでお金持ちだらうふと思ったのか、「来年の夏はフランスに来るか?そうしたら僕のところに来い」と言ったことである。そのホテルの青年の父親で、別のテエブルにゐた年配の男はゲランの店の主人(?)だったし、お客の中には島津貴子夫人も交じってゐ、私の日常の生活のはひどく離れた世界だったのだ。吉村真理とも、私のテエブルに来て貰って話した。好きなタレント性をもったD・Jである。柳沢二三子夫人の、交際に馴れた、といやうな、誰でも使ふ形容詞では一寸不足な、欧羅巴の人のやふな性格が支配してゐるそのパアティーは、よく知っている人々だけの小宴だったとはいへ、アンチイムなものが流れてゐて、そこには、一種の温かさがあった。それで私も自身のない言葉をあやって楽しく話すことが出来たのだと言うことに、私は帰り途になってから気づいた。楽しい不思議な国だった。」

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